歩掛とは、土木工事において単位数量あたりの作業量や作業日数を数値化したものです。簡単に言えば「どれだけの作業員と機械でどのくらいの作業ができるか」を示す指標です。土木積算において歩掛は労務費や機械経費を算出するための重要な基礎データとなります。
例えば、1m³の土砂を掘削する作業に、普通作業員が何人必要で、どのくらいの時間がかかるかを示すのが歩掛です。この数値は工種や施工条件によって大きく異なります。標準的な条件での作業効率を「標準歩掛」として国土交通省などが公表しており、これを基準に積算が行われます。
国土交通省が公表している「土木工事標準歩掛」は、公共工事の積算における基準として広く使用されています。これは毎年、約100工種を調査対象にモニタリング調査を行い、そのうち20~25工種については詳細な施工実態調査を実施して更新されています。各自治体や他省庁もこの標準歩掛を基本としながら、所管の状況に合わせて調整して使用しています。
土木積算と建築積算は同じ「積算」という言葉を使いますが、その本質は大きく異なります。土木積算は発注者の予定価格をシミュレートする意味合いが強く、発注者が使用する標準歩掛をいかに正確に理解・適用するかが重要です。一方、建築積算は自社のコストを正確に算出する「見積もり」としての性格が強いため、歩掛の使い方も異なります。
土木工事の積算では、国土交通省などが定めた標準歩掛を使用して発注者の考え方に沿った積算を行うことが入札成功の鍵となります。建築工事では、標準単価方式や市場単価方式が主流となっており、材工共(材料費と労務費を合わせた)単価での積算が一般的です。
歩掛の基本的な計算式は以下の通りです。
Qt = Qs × E × T × N
ここで:
土木積算では、作業員1人が1日(8時間)働くことを「1人工(にんく)」と表現します。例えば、3人の作業員が6時間作業した場合、3人×6時間÷8時間=2.25人工となります。歩掛を用いた労務費計算では、この人工に労務単価を乗じて費用を算出します。
例えば、1m³の土砂掘削に普通作業員0.25人工が必要で、普通作業員の単価が23,000円/日の場合:
このように、歩掛は積算における労務費計算の基礎となります。
歩掛は主に労務費と機械経費の算出に使用されます。材料費は一般的に数量×単価で計算されますが、歩掛には材料のロス率なども含まれることがあります。機械経費については、機械の運転に必要な時間を歩掛から算出し、それに機械損料や運転経費(燃料費、オペレーター費など)を乗じて計算します。
土木工事の積算における労務費計算は、発注者が使用する標準歩掛を正確に理解し適用することがポイントです。工種ごとの歩掛から必要人工を算出し、それに公共工事設計労務単価を乗じることで労務費を計算します。
例えば、道路土工の掘削(バックホウ掘削)の場合、作業条件(土質、掘削深さなど)に応じた歩掛を選定し、それに対応する機械運転手や普通作業員の人工を算出します。
標準歩掛は標準的な施工条件を前提としています。実際の工事では、施工条件が標準と異なる場合が多いため、適切な補正を行う必要があります。主な補正要素としては:
これらの補正を適切に適用することで、より実態に即した積算が可能になります。
入札における最大のポイントは、発注者がどのように歩掛を適用しているかを理解し、予定価格を高精度で推定することです。過去工事の研究・分析を通じて、発注者ごとの歩掛適用の「癖」や傾向を把握することが効果的です。
具体的には、過去の同種工事の設計書や数量計算書を詳細に分析し、どの歩掛が適用されているか、どのような補正が行われているかを検討します。これにより、発注者の積算思考プロセスを読み解くことができます。
発注者が使用している歩掛を特定するためには、以下の方法が有効です:
入札を勝ち抜くためには、複数の歩掛解釈や補正の適用方法を検討し、最も可能性の高いケースを見極めることが重要です。例えば、ある工種について複数の歩掛が適用可能な場合、発注者がどちらを選択するかによって予定価格が変わります。過去の傾向分析から発注者の判断パターンを把握し、より精度の高い推定を行いましょう。
また、施工地域区分(市街地、山間部など)や工種区分の判別も重要です。これらの区分によって間接工事費率が大きく変わるため、発注者と同じ区分で積算することが予定価格推定の精度向上につながります。
標準歩掛は全国平均的な施工効率を前提としているため、地域特性や自社の施工効率とは差がある場合があります。この差を分析・把握することで、より精度の高い積算が可能になります。
具体的には、過去に施工した工事のデータを収集し、標準歩掛と実際の施工実績を比較します。例えば「土砂掘削1m³あたりの実際の人工数/標準歩掛の人工数」という比率を工種ごとに算出することで、自社の施工効率の特性を把握できます。
同じ工種でも、地域や季節によって施工効率は大きく異なります。例えば:
これらの要因を積算に反映させるためには、地域ごと・季節ごとの補正係数を自社データとして蓄積することが有効です。過去の工事実績から、地域・季節ごとの「歩掛補正係数」を独自に作成し活用することで、より実態に即した積算が可能になります。
歩掛に関する情報を効率的に管理・活用するためには、社内歩掛データベースの構築が有効です。データベースには以下の情報を含めると良いでしょう:
これらの情報をデータベース化し、社内で共有することで、積算担当者の経験や知識に依存しない、組織的な積算精度の向上が図れます。
積算のノウハウ、特に歩掛に関する知見は、個人の経験として蓄積されがちです。これを組織の財産として活用するためには:
これらの取り組みにより、個人の経験が組織の知恵となり、全体の積算精度向上につながります。
積算ソフトを活用することで、歩掛の適用や計算の効率化・正確性向上が図れます。特に近年のクラウド型積算システムでは、以下のようなメリットがあります:
土木工事積算システム『Gaia Cloud』は、受注者視点での積算効率化を実現する先進的なツールです。その特長は:
これらの機能により、歩掛の適用ミスや計算ミスを防ぎながら、高精度の積算を効率的に行うことが可能になります。
積算業務のデジタル化は今後さらに進展し、歩掛の活用方法にも変革をもたらすでしょう。AIによる過去データ分析で発注者の傾向を自動予測したり、BIMやCIMと連携した自動積算が普及することで、より精度の高い予定価格推定が可能になります。
積算担当者には、こうしたデジタルツールを単なる計算ツールとしてではなく、発注者の思考を読み解き、入札戦略を立案するための「思考支援ツール」として活用する視点が求められています。
歩掛は土木積算の根幹をなす重要な要素です。特に受注者の立場では、発注者がどのように歩掛を適用しているかを理解し、それに合わせた積算を行うことが入札成功の鍵となります。過去工事の研究・分析を通じて発注者の積算思考プロセスを読み解き、さらに自社データや最新のデジタルツールを活用することで、より精度の高い予定価格推定が可能になります。
土木積算は単なる計算作業ではなく、発注者の考え方を理解し、それを自社の積算に反映させる「頭脳戦」です。歩掛の正確な理解と適切な適用が、その戦略の根幹をなしています。本記事で紹介した知識とテクニックを活用し、より高度な積算技術を身につけていただければ幸いです。
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